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4.ワイナリーツアー~酔っ払いの友に乾杯~

渡米前に映画「SIDEWAYS」を観た。主人公たちが訪ねるワイナリーはサンタバーバラ周辺だったが、ほど近いサンルイオビスポカウンティはカリフォルニアで2位といわれるワインの産地。大小70以上にのぼるワイナリーは、それぞれに特徴ある逸品でワイン好きをうならせている。資料によるとカリフォルニアワインのラベルはわかりやすく、ぶどうの品種を表示している。また、産地も品種も、含有量が75%以上という規定があり、だれでも理解できるように配慮されているのだそう。
どうしてもワイナリーめぐりがしたくなった。

調べてみると、私が現地入りする週末は、サンルイオビスポワイン協会主催の年に一度の“Roll Out the Barrels2007”という4日間に渡るイベントと重なっていた。木金曜のダウンタウンでの樽出し会や、各レストランでのワイン・ディナーと様々なイベントが催されているのである。そしてメインイベントは、土曜と日曜の2日間、協賛する12の主要ワイナリーを巡るパスポートが発行され、どこでも全種類のワインと食事やおつまみがサービスされるというもの。ラッキーとしか言いようがない!事前にISAPのディレクターKateから聞いてはいたけれど、見事なタイミングで展示会を開催してくれたものである。
ワイン協会のホームページでWine tasting tourの会社The Grape Lineを知り、早速ワインカントリーを巡るシャトルを予約した。約5時間のツアーで45ドル。それにRoll Out the Barrelsワイナリーパスポートが日曜のみの48ドル。100ドル程度で、忘れられない体験をすることができた。

さて5月6日(日)朝、ぶどうの絵柄とロゴで飾られた大型シャトルバンがホテルまで迎えにきてくれて、運転手兼ガイド・フリッツの楽しいワイン談義とともにロングドライブが始まった。私以外の参加者は、私と同年代のカップル3組とリタイアした年代のカップル1組。東洋人の女が一人寂しくツアー参加か、と気を遣われても困るから、自己紹介のときにしっかりと、「飛行機嫌いのダンナは置いてきたから一人旅なのよ、展示会でたまたまサンルイに来てるアーティストなの。皆さんとご一緒できて嬉しいわ〜。」とアピール。皆ホッとしたのか「よくしゃべる日本人だね、珍しい。」と言われながら、にぎやかに車中で話は盛り上がった。リタイアカップルは、大型キャンピングトレーラーで西海岸を旅行中。同年代カップルはそれぞれロサンジェルスや近郊から参加している。一組のカップルのダンナさんは、ワイナリーツアーの時だけ着るというワインボトル柄の粋なシャツを着ていた。金曜のワインディナーから3日連続参加中のつわものカップルも居た。

最初に立ち寄ったワイナリーKynsiでパスポートを買ってスタンプをもらい、サンルイオビスポワイン協会のロゴ入りワイングラスをひとつ渡された。さてさて最初の一口は・・シャルドネ。そしてカベルネソービニヨン。さらにピノ・ノワール。それぞれにブリーチーズやバルサミックビネガーで和えたプルドチキンのカナッペ、渋いジンファンデルにはイチゴとクリームの載ったブラウニーが合わせられていた。低めのぶどう畑の緩やかな斜面を望みながら、コクと深みのバランス良いピノ・ノワール2004年を1本購入。ただちにフリッツに回収され、外袋にkyokoとマジックで書かれてバンの荷台、ワインケースに“安置”された。

グラスを持ったまま次に向かったのはClaiborne&Churchill。多くのワイナリーは家族経営で、ここもそんな気の置けない手作り感たっぷりのテイスティングルームである。ワイン蔵にはオークの樽がぎっしりと積まれ、壮大な眺めだ。ご自慢のドライリースリングやマスカットなどのさっぱりしたワインをスパイシーなアジア風おつまみやサラダ、シュリンプカレーなどと合わせてあり美味しかった。なぜか「さくらさくら」など日本のわらべ歌がBGMに流れ、色とりどりの番傘が飾られてるので不思議に思って聞いてみると、ワイナリーの親族の中に、日本で仕事したか何かゆかりのある人がいるらしかった。

大きなイベントの2日間なので、どのワイナリーも先客がたくさん居て、駐車場にはおしゃれなコンバーティブルが色々並んでいる。飲酒運転は大丈夫なのかな?気に入ったワインを、皆6本や12本のケースで買って積んでいる。いいなあ。何しろ今や、飛行機内は化粧水すら持ち込めない規定になってしまったから、私はせいぜい重量オーバーにならない程度にスーツケースに入る本数しか買えない。まあ限られた中で気に入りを決めるのもまた楽しいものである。

3番目のワイナリーは、TOLOSA。最新鋭のワイン醸造システムを、テイスティングルームのガラス越しに眺めることができるスタイリッシュな造りになっていた。テラスのバンケットでは南部料理のジャンバラヤやコーンサラダ。ここでもピノやカベルネを楽しみ、山高帽を被ったオーナーが樽出しの一杯を注いでくれるというサービスもあった。さすがにお腹もいっぱいでちょっと酔いが回ったかな・・という頃に、ワイナリー特製のミントジュレップ(ミントを漬け込んだ甘いお茶)がリフレッシュしてくれた。ここでは特に美味しかったシャルドネを一本購入した。

次のワイナリーでは、スピーカーから流れる大音響のカントリーミュージックと香ばしいバーベキューの匂いに迎えられた。ワインコンペ受賞歴のあるピノ・ノワールやグリージョで知られるPer Bacco Cellarsだ。屋外の芝生にピクニックテーブルが並び、炭火で焼いたビーフやポークをのせたトルティーヤにグゥワカモレ(アボガドディップ)やグリルした色とりどりの野菜を添えて、豆類のサラダと一緒に頂いた。デザートの、イチゴのクリーム添えが冷たくて美味しい。樽のかすかな香りがスパイシーな、シャキッとした風味のシラーを一本購入。このあたりからかなりの分量を飲んだ人も居て、一緒にまわっている中でいちばん明るくはしゃいでいる女性がグラスを落として割ってしまう愉快なハプニング。それにしても皆ワインに詳しくて、でも決してワインスノッブではなく色々飲み頃や味わい方を教えてくれてとても参考になった。

「5番目のワイナリーは特別です」まずは有名なアップルシャルドネから飲むように、とフリッツがゆっくりと門をくぐったKELSEY SEE CANYONは、華やかな孔雀が何羽もいる美しい農園だった。とはいえ、甘めの白は要らないと、こっそりピノとメルローのコーナーで注いでもらおうと並んだら、スタッフに「シャルドネから味わってください」と見つかった。ハイハイわかりました、とアップルシャルドネを飲んでみたら、そう甘くはなく、爽快な酸味と香りが素晴らしかった。その後に飲んだピノの深みのある美味しさ。やはり順序は守るべきと大いに納得。タコスやサルサのおつまみ、クランベリーブレッドなどが美味しく、ここでも新鮮なイチゴがたくさん出された。

私がアーティストだと聞いてフリッツがこっそり耳打ちしてくれた。「最後にもう1か所回ってあげよう。素晴らしいアートギャラリーがあるから」と向かった先はSALISBURY VINEYARDS。100年も経た古い学校の校舎をレストアしたという天井が高く広い建物の半分がテイスティングバー。もう半分がコンテンポラリーなアートギャラリーになっていて、広い庭にはガーデンテーブルが心地良く配されている。フリッツが紹介してくれたギャラリー・SALISBURY FINE ARTのオーナーはミス・マリデル。全米やカナダから版画やペインティングを扱っている。また、メキシコの鉄の彫刻にも造詣が深く、面白いコレクションを見ることができる。サンルイオビスポダウンタウンのギャラリー同様、とても質が高く品の良い作品を丁寧に飾っている。「あなたの作品も置いてもらいたいわ。」と、私のキャリアを聞いて言ってくれた。常々思うことだけれど、ワインとアートは本当にベストマッチだと再認識する豊かなひとときだった。
ほとんどテイスティングそっちのけでマリデルとの話に夢中になってしまったが、ワインはピノ・グリージョ、シラーとどれも芳醇で素晴らしく、ロゼも美味しかった。マスタードディップ添えのクラッカーやチキン・サラダがワインと良く合っていた。

帰路、ハイウェイ101からぶどう畑と太平洋を望みながら、酔い心地で人生について考えた。結婚35周年になるというフリッツによると、夫婦仲の秘訣は相手に対していつでも「Yes!」と言うことだって。私もそうしよう。たぶんそうしてきたと思う。
次のワイナリーツアーには、ぜったいダンナと一緒に参加したい。
さてダンナは「Yes!」と言ってくれるかな?

※ サンルイオビスポワイン協会のホームページ http://www.slowine.com/index.fsp

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