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6.メトロポリタン美術館と渡嘉敷亨さん
友人も、私同様これまで旅先で様々な美術館を訪れている。美術館という場所が一軒入ると1日がかりであることを良く知っている。そこで、今回ミュージアムマイルは外観を楽しむに留めようかということになり、とりあえず96th stで地下鉄を降りてセントラルパーク沿いに散歩としゃれこんだ。グッゲンハイムの美しい建物をバックに友人の写真を撮ってあげようと思ったら、塗装か何かの工事中で螺旋の建物がすっぽりと型枠と足場に囲まれてしまっている。まぁこんな光景も珍しいので撮影しておく。メトロポリタン前でもやはり正面の大階段に座るという定番の証拠写真を撮り、美術館周辺の高木がひときわ心地良い歩道沿いの様々なアートの出店を見て廻る。近所のアーティストがプリントやオブジェを販売していて、どのベンダーも個性的で楽しい。今やNY土産の定番となった感のあるマトリョーショカ(入れ子人形)屋を発見し、娘に映画「アンツ」の人形を買う。中身は全部違うキャラクターがそれぞれ不気味な手描きで勢揃い。著作権問題にもなりそうにない下手さ加減がオツだ。思えば昔のマト人形は裏にUSSRと刻印されていたっけ、などとそぞろ歩いていたら、声を掛ける人がいる。なんと、Ceresオープニングに来て下さった沖縄出身の画家・渡嘉敷亨さんだ。オフの日に似顔絵を描いているというブースには、イーゼルやデッサン紙、画材が詰まれていた。設計士でもある渡嘉敷さんは、沖縄でのキャリアを一旦措いて現在NYのArt Student Leagueで勉強中の画家。作風は正統派の細密な油絵だ。このレポートで、ご本人のご希望もあり紹介させて頂くことになった。http://tokashiki.hp.infoseek.co.jp/ 
私は以前沖縄の画廊で渡嘉敷さんの作品を見ている。沖縄の原風景を丁寧に描いていて、几帳面なお人柄が伝わる作品であった。彼は渡米前に私のギャラリーを訪ねて下さったそうだ。色々模索しながらしばらくNYに滞在する予定であるという。その真っ直ぐで真剣な取り組みはアーティストを目指す者に必要なことであり、外へ飛び出すエネルギーは必須であると言える。動かなければ、何も始まらないのだから。穏やかで優しい物腰の渡嘉敷さんが人に好かれる人物であることも一目瞭然で、きっと様々な出会いがこれからも出てくることだろう。「記念に似顔絵を描いてくれませんか?」と頼んだけれど、「自分のデッサンは細密で一週間以上もかかってしまう」とおっしゃる。旅程に合わないので諦めたけれど、他の画家たちのように20ドル位でササッと30分で仕上げたりしないところが渡嘉敷さんらしさなのだろう。
真面目な人間が成功する世の中であってほしいと思う。ごまかしや間に合わせではなく納得いくまで挑戦するという姿勢。1度きりの人生、後悔したくないではないか。
今日もきっと絵描き仲間に囲まれて、渡嘉敷さんは同じ場所で描いているのだろう。

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