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1. Art After DARK(日暮れ後のアート)

2007年5月5日(土)のISAP展オープニングパーティーに合わせ、成田からロサンジェルス、そして例の胴体着陸ボンバル機のごとき小さな国内線に乗り換えてサンルイオビスポへと向かう。プロペラエンジン音が炸裂する機内だが皆平気で楽しげに乗っている。旅程中みごとな晴天に恵まれ、飛行機から見下ろすウエストコーストの波も美しく、豪奢な家並みの町や緑豊かな山々を超え1時間。5月4日(金)の午後、サンルイオビスポの小さな空港に到着した。
西海岸の町らしく、ダウンタウンから数ブロック離れたハイウェイ沿いに、駐車場を備えたホテルが並んでいる。その中のひとつ、EconoLodgeを予約していた。ドーナツやシリアル、コーヒーにジュースなどの朝食も付いて、古いながらも便利なところであった。ひとまず荷ほどきをして、さっそくダウンタウンのギャラリー街へと向かった。
画廊の営業時間はどこも通常午後6時まで。ラッキーなことに、毎月第1金曜日は“Art After DARK”と銘打ち、ダウンタウンのアートギャラリー20軒が午後6時から9時までの間、ワインやチーズ、カナッペ、お菓子などをサーブしてお客をもてなしてくれるという粋なアートイベントが行われていた。8時をすぎてもまだまだ日暮れに程遠く空が明るいカリフォルニア。三々五々人が集まり、どのギャラリーもお客で賑わっている。協賛しているギャラリーは、“A”のマークの書かれたたて看板を入り口に掲げ(まさしくAサインバーのノリだ)、客足を誘う。面白いイベントだと思った。話はそれるが、KYOKOARTギャラリーのある首里界隈は、城下町にふさわしく散策できる通りをつくろうと20年がかりの改修工事がすすめられている。いずれ、古きを大切にした品の良い町並みが出来上がってくるだろうと傍で期待しているところだが、サンルイオビスポの“Art After DARK”のようなイベントができると楽しいだろうなと思う。飲み物片手にライトアップされた首里城を遠く望みながら、路地路地にギャラリーやショップを訪ね歩く特別な晩というのはお洒落である。
さて、サンルイオビスポ・ダウンタウンのコンテンポラリーギャラリーで扱われる品目は、絵画や版画、彫刻、ガラス、写真、陶器、シルクストールなどの染織に加え、ジュエリーが多いのも特徴だろう。手の込んだビーズ細工以外にも、高価な貴石やパール、シルバー、ゴールドを使った大振りの格調高い作品が多く、欲しくなる一点ものばかりである。絵画も写真も、題材に困らない風光明媚な土地柄とあって、地元アーティストの描く風景画や静物画で盛りだくさん。旅行で立ち寄りじっくり選んで買って行くお客もかなり多いようだ。地元でキャリアの長い画家Julie Dunnがアーティスト仲間3人で立ち上げたThe Gallery at the Networkはひときわ目をひく上質な作品群が丁寧にライトアップされた空間。ちょうどJulie本人が居て、お互い画家で画廊を経営している者どうしということもあり、話が盛り上がった。彼女によると、経営にあたる3人以外の作家ものを木工、ジュエリー、彫刻や陶器と色々上質なものから扱っているが、売れた場合に画廊が取るコミッションは15%だけ。バランスよくコーナーをつくり、それぞれの作家に家賃をシェアしてもらっているのだという。これは良い運営方法である。常により良い新作が上がってくるだろうし、毎月の“Art After DARK”がリフレッシュのチャンスともなる。各作家はそれぞれに小さな負担でギャラリーを持つことができ、制作に専念することができる。“Art After DARK”の晩に画廊に出かければお客も喜び場が盛り上がる。私の訪ねた晩も、かなりの人出で賑わい大きな陶芸の作品が2点売れたというし、こうしてコンスタントに販売されれば画廊も作家もお客もすべてハッピーという構図である。Julieに限らず、画廊のディレクターたちは皆口を揃える。「Customers here are very supportive to the art world!(画廊を訪ねる顧客の皆様が、アートへの関心を高くお持ちなのです)」と。
私も、沖縄で常日頃お客様のアートを楽しんで下さる感性に感謝し、助けられている画家であり、いつもそのことを表明しているわけだが、同じことをサンルイオビスポのアート関係者達が言っているのである。「Oh,it's just what I've been looking for!(ちょうどこういう絵が欲しかったの)」と言って絵を買って下さるお客様と、画廊、作家とのとても良い関係がアートの世界をしなやかにヒートアップさせてくれるのだ。
ボーイフレンドが出張先の京都で買ってきてくれたという日本製の絹のボレロをまとったJulieはとても上品で、彼女のtempera batik painting技法の絵と同様に華やかな女性であった。
Julieの画廊と同じ並びに、Just Looking Galleryというケッタイな名前の画廊があり、ここもまた質の高い描写の凝った油絵や版画、ブロンズなどが並んでいた。40代くらいの男性オーナーはカウンター越しにずっと電話で話し込んでいて、その内容がすべて聞こえてしまった。たぶん作家との会話なのだろう、「その調子で頑張って描いてくれ」「チャンスを待つんだ」とか、「そのうち売れる日がくるから」とか、長話となっていた。壁の作品はどれも、よく売れそうな心地良いテイストのものばかりだったけど。

サンルイオビスポには大きな画材店と、アートや工芸・手芸から内装・ガーデニングまで幅広い材料を扱う大型店があり、それぞれとても賑わっている。アーティストや手芸家もたくさん住んでいることがよくわかる。Art After DARKに協賛しているLaw's Hobby Center's Upstairs Galleryは、画材店の2階の回廊を占めるスペースの広い画廊。様々なタイプの作品が扱われていて、アーティストの多さもさることながら、熱心に選ぶお客も多いのに驚く。
その他のどの画廊でも気前良くおつまみのトレイとシャルドネ、メルローなどの地元産ワインが振舞われ、本当に気持ちよく散策し、アートを鑑賞できる。
とても理想的な情景である。



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